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Alex Oyler

サブスクリプションとSDV:価値提案はどこにあるのか?

自動車業界では、ソフトウェアディファインドビークル(SDV)プログラムによる機能およびソフトウェア主導の収益から得られる経済的メリットは完全に実現してはいないものの、サブスクリプションモデルの重要性については十分に理解されています。General Motorsは、1996年にOnStarサービスを通じて、年間799ドルという高額なコネクテッドサービスのサブスクリプションを導入し、この分野での先駆者となりました。


過去25年間で、多くの自動車メーカーが提供するコネクテッドサービスのサブスクリプションエコシステムは拡大しましたが、これらのプログラムを主要な収益源にできたOEMはほとんどなく、これらのプログラムを提供・運営するコストを考慮すると、マージンや収益のトップラインにわずかな押し上げ効果をもたらしたに過ぎません。


ソフトウェアディファインドビークル (SDV)の登場

かつては販売後に新しい機能を提供することがなかった自動車が、今では販売後も新しい機能や価値を追加できるようになりました。これにより、車のライフタイムを通じて顧客により多くのメリットを提供できるようになっています。


これは、収益性の確保に苦慮してきた業界にとっては非常に喜ばしい進化と言えます。一般的な消費者は、購入した自動車が常に安全に目的地まで運んでくれることを求めている一方で、その過程においてより多様でパーソナライズされた体験やサービスが追加されることへの期待も持っています。これが、新たなソリューション、つまり付加価値の高い機能や体験のための新たな道を開く、スケーラブルでソフトウェア主導のプラットフォームの開発や普及を促進する可能性があります。


経済がひっ迫する中でのサブスクリプションの減少は、短期的には機会を狭める可能性があるものの、自動車メーカーは長期的に新しい価値を生み出す機能と体験の組み合わせを見極める必要があります。


本インサイトでは、コネクテッドサービス、ソフトウェアディファインドビークル(SDV)、ユーザーエクスペリエンスに関する調査に基づき、自動車業界におけるサブスクリプションサービスの歴史と、SDVがこれらのサービスの価値提案に与える影響について解説します。


ここでは、ソフトウェア主導の収益目標と、車両サブスクリプションサービスのより良い価値提案の必要性を関連付けて説明します。そして他業界の事例を参考に、サブスクリプションパッケージの中で何が消費者に最も訴求するのかについて検証します。最後に、このアプローチを採用する自動車メーカーの新たなプログラムに焦点を当てるとともに、このテーマに関連するSBD Automotiveのレポートおよびサービスについてご紹介します。


ソフトウェア・ターゲット

サブスクリプションサービスの開発において、多くの自動車メーカーは、SAE L2以上のハンズフリー運転機能、ストリーミングコンテンツやメディア、パーソナライズされた体験、フリートオーナーやドライバー向けの新しい多様な機能など、将来の製品ロードマップを基に、ソフトウェア主導での収益創出を目指す野心的な目標を設定しています。


しかしながら、こうした目標を達成するための道筋は、ますます不透明になっています。SDVの実現の遅れが、こうした付加価値の高い機能や体験のリリースやアップデートに不可欠な新しい車載技術の採用の足かせとなっています。加えて消費者は、データプライバシーやAI、追加コスト、世界的な消費減退傾向に懸念を示しており、コネクテッドカーに対して消極的な姿勢を示し始めています。

これらの目標を達成するためには、コネクティビティのサブスクリプションサービスを計画または提供する自動車メーカーは、そのロードマップおよびパッケージング戦略、さらにはサブスクリプションパッケージ全体に新たな価値を提供する能力について慎重に考える必要があります。


価値提案の創造

当然のことながら、人々は価値を感じないものにはお金を出しません。現在、コネクテッドビークルプログラムの過去のデータと、SBD独自の消費者調査によれば、コネクテッドカーオーナーの20%以上は、コネクテッドサービスに対してお金を払うことをためらっており、ほとんどの自動車メーカーはこの層にサービスを提供するのに苦戦しています。


ソフトウェアディファインドビークルは、こうした自動車メーカーにとってサブスクリプションサービスの価値提案を再考する絶好の機会を提供しています。世界で最も成功しているサブスクリプションサービスはこの機会をすでに活用し、顧客に複数の価値提供の手段を提供しています。


  • Amazonプライム:お急ぎ便、Prime Videoなどへのアクセス、その他の特典を提供

  • 音楽ストリーミング: Spotifyのようなサービスは、音楽、ポッドキャスト、オーディオブックを月額パッケージで提供

  • 個人向けクラウドサービスAppleのiCloudのような個人向けクラウドサービスでは、様々なデータホスティングやバックアップサービス、オンラインコラボレーションツールを提供


フォーブス誌によると、平均的なアメリカ人消費者にとって最も重要なサブスクリプションサービスの種類は、エンターテインメント(音楽、ニュース、ライブTV)とライフスタイル(デリバリー、セキュリティ)に関するものである。自動車業界の顧客が購入したくなるような価値提案をするためには、退屈なものであってはならないだけでなく、日々のライフスタイルにほとんどシームレスに統合されている必要があります。また、「粘着性」のある(ユーザーの使用頻度が高く解約するには惜しいと思うような)機能への複数の経路を提供しておくことが重要です。


「基本」を最優先する

また顧客は、継続的に価値が提供されなかったり、現実の問題に対処できなかったりするサービスに対して、興味を示さなくなります。サブスクリプションの解約率を低く抑えるには、OTAアップデートを継続的に配信し、新機能を導入することが不可欠です。しかしながら、OTA機能を提供に関するノウハウを有する成熟した製品開発チームを持たない自動車メーカーは、こうしたビジネス目標の達成に苦慮する可能性があります。


新たにサブスクリプションの選択肢の導入を検討する前に、「基本的な要素」の準備が整っていることが重要です。これは、コネクテッドカー全体に製品開発を効果的に拡張するための適切なプロセス、ツール、プラットフォームを持つことを意味します。既存のコネクテッド機能を再構成したり、もっと悪いことに、以前は車両に標準装備されていた機能を収益化しようとするような試みは、有料会員やブランド全体の印象にとって何の効果もない、あるいは悪影響を及ぼす可能性があります。


これはマズローの欲求階層説と一致します。自己実現(商業化)について議論する前に、先に述べたような、基本的な依存関係に取り組むことが不可欠です。これについては、9月に開催されるVector North America SDV Symposiumにおいて、より詳しくお話しする予定です。 ご登録(無料)はこちらから

今後の展開

これまで、OEMのコネクテッドサービスのサブスクリプションには、さまざまな価格帯や機能バンドルがありました。これは将来変わる可能性があります。OEMは現在、できるだけ長く自動車を接続させることに意欲的になっており、セーフティに関連するコネクテッドサービスの「無料」での提供によって、市場でアクティブなコネクテッドカーの数が増える可能性があります。


ほとんどの消費者にとって、個人が所有する車は単に移動を可能にするツールに過ぎず、デジタルライフスタイルへのゲートウェイではありません。そして、消費者が選ぶブランドは、その人の価値観を反映しているかもしれませんが、最終的に消費者が最も重視するのは、そのツールを可能な限り安全、安心、持続可能、シームレスに使用できるような機能と体験の組み合わせなのです。


通常、単一の機能、あるいは小さな機能セットで、有料サービスの普及を促進するのに十分な価値を提供することはできません。多くの場合、より説得力があるのは、「プレミアム 」なエクスペリエンスの提供という考え方でしょう。つまり、さまざまな機能やパーソナライズされたサービスをまとめて提供することによって、一般的な車とは一線を画した運転体験を実現するというものです。


その一例として、Rivianは新しいサブスクリプションプログラム「Connect+」を提供しています。この有料サブスクリプションサービスでは、単なるコネクテッド機能一式(これらは無料で提供される)ではなく、Apple Music、衛星画像、Gear Guard Live Camなど、コネクティビティに対応した機能の数々が提供されます。

これは、TeslaのPremium Connectivityパッケージと同様に、単一の有料プランで多くのコネクティビティ機能を利用できるというものです。このようなパッケージは、提供される機能に対して月額14.99ドルと手軽な価格設定であるだけでなく、エンドユーザーにとっても合理的な選択肢となるため、より多くの消費者に訴求すると考えられます。


今後自動車メーカー各社は、これらのパッケージにさらに多様な機能を追加していくと予想されます。顧客にとっては、Amazon Primeのようなサービスの価値提案に沿ったものになっていくでしょう。すべてのサービスを毎日利用するわけではなくても、パッケージの総合的な価値によって継続的な利用につながり、その価値はより多くのサービスが追加されるのに伴ってますます高まっていきます。


本調査への参加方法、お問合せ先

SBD Automotiveが提供する調査レポートおよびデータベースでは、コネクテッドサービス 、ソフトウェアディファインドビークルプログラム、E/E アーキテクチャ、OTAアップデート、デジタルコックピット機能を網羅し、これらの領域が今後どのように進化するかについての将来的な見通しも提供しています。


SDVに特化した調査レポートでは、SDVライフサイクルの主な分野(開発の初期段階から将来的な導入を可能にするベストプラクティスまで)について、専門家による詳細な分析を提供しています。これらのレポートを組み合わせることで、SDV戦略の推進、強化、そして将来性の確保に向けた包括的な知識を得ることが可能です。


SDVに関する最新レポートの情報をご希望の方は、SBD Automotive ジャパン(Postbox@sbdautomotive.com)までご連絡ください。また、下記より地域を選択し、該当する地域を担当するSBDアカウントマネージャーとの打ち合わせをご予約いただくことも可能です。





 


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