OEMが最新の自動車に搭載するテクノロジーの数は増加し続けており、各社が提供するイノベーションによって、それらを取り巻く状況が進化し、最終的にはソフトウェアディファインドビークル(SDV)の実現につながっていきます。しかし、これらのテクノロジーの成功は、最終的にはシームレスで満足のいくユーザーエクスペリエンス を提供できるかどうかにかかっています。OEM、開発者、サプライヤーにとって、そうしたエクスペリエンスを提供することは、製品の発売を成功させるだけでなく、車両とそのデジタルサービスのエコシステムに対する長期的な顧客のロイヤリティを確保することになります。
SBDの車載HMI UXベンチマーク評価レポートシリーズでは、HMI機能が車載ユーザーエクスペリエンスにどのようにプラスに、あるいはマイナスに貢献するかを評価しています。このレポートシリーズでは、最新のHMIシステムを包括的かつ分析的に評価するもので、SBDのベストセラー、ロングランレポートのひとつです。2024年のレポートシリーズでは、SBDのUX専門家が6車種のシステムの評価・ベンチマークを実施し、この分野でリードしているのは誰か、遅れをとっているのは誰かを明らかにします。
BMW X1のHMI UX評価を行った第一弾のレポートに続き、本記事では2024年型Eクラス(Mercedes-Benz)を深く掘り下げたシリーズ最新作のレポートについて取り上げます。同モデルのIVIとUXの概要を紹介するとともに、主要システムの長所と短所について概説し、エンドユーザーエクスペリエンスへの影響を検証します。
Mercedes-Benz Eクラスの車載HMI UX評価
2024年、EクラスはさまざまなHMIの新たな、あるいは改善させた様々な機能およびテクノロジーを発表しています。その最たるものが、Mercedes-Benz「Superscreen」の搭載です。これは、オプションの助手席用ディスプレイと組み合わせることで、ダッシュボードの幅いっぱいに広がる統合型インフォテインメントスクリーンとなります。多くの国において、前席の同乗者は走行中にこのスクリーンを使って、マルチメディアやビデオストリーミングサービスのさまざまなダイナミックコンテンツにアクセスし、視聴することができます。ドライバーがこのコンテンツに気を取られないように、車載カメラによるインテリジェントフィルタリングコンセプトがディスプレイを「遮断」し、前方の道路に集中できるようになっています。
Superscreenを支えるのは、新たなソフトウェア中心のエレクトロニクスアーキテクチャであり、単一のプロセッサを使って、従来は別々だった機能領域のコンピューティング機能を実行します。これにより、MBUXとスクリーンは、より強力な新しいセントラルオンボードコンピューティングシステムを共有することができます。ディスプレイ自体では、新しい互換性レイヤーがサードパーティ製アプリの互換性をMBUXにもたらします。これにより、ドライバーはAngry Birdsなどのゲームをインストールしたり、ソーシャルメディアアプリTikTokにアクセスしたり、Zoom(車載カメラを使用)を使って会議に参加したり、Vivaldiを使ってウェブを閲覧したりすることができます。
主なポイント
SBDのUX専門家チームは、HMIのUX評価プロセスの初期段階で、2024年型Eクラスが提供する新たな「Zero-layer(ゼロレイヤー)」テーマの重要な強みを発見しました。
Mercedes-Benz独自のマルチメディアシステムであるMBUXの新要素として発表されたZero-layerテーマは、トップレベルのメニューからよく使う機能やアプリに素早くアクセスできるようにすることで、メニューの奥行きや階層を最小限に抑えることを目的としています。また、学習したユーザーの行動や習慣に基づいて、さまざまな機能やショートカットについて同様の提案を行います。新型Eクラスで最初にユーザープロファイルを設定する際、ドライバーはプロファイル作成プロセスを進めるために、MBUXのテーマを「Zero-layer」か「Classic」のいずれかを選択する必要があります。その際MBUXは、ユーザーが選択しやすいように、各テーマを比較し、主要なプロパティを詳細に説明するわかりやすいコールアウトを提供します。SBDの専門家チームは、ユーザージャーニーの初期段階で提示されるこうした選択肢と、それによって提供されるパーソナライゼーションのレベルが、HMI UXを大きくサポートしていると評価しました。また、システムがデフォルトでClassicテーマに設定されていた場合には、ユーザーは車両設定からZero-layerを見つけて有効にする必要があるため、Zero-layerをの利用率はかなり低くなる可能性が高いことも明らかになりました。
一方で、UX専門家チームは、運転中にHMIコントロールの一部はユーザーにとって複雑であり、その利用を妨げかねないと評価しています。特に、ステアリングホイール上のボタンは、システムとのインタラクションを容易にするために、静電容量式タッチテクノロジーと物理的なボタンを組み合わせて使用しています。テストの結果、この組み合わせは誤操作のリスクが高く、すぐにユーザーのフラストレーションにつながることが明らかになりました。同時に、ステアリングホイールの周囲にある4つのバーの上に表示されるアイコンの数が多く、複雑な外観を作り出しています。ホイールの左側には、ADASのコントロールが密集して配置されており、安全かつ正確に操作するために、ドライバーはしばしば前方から目をそらす必要があります。これも同様に、安全上重要なシステムの操作に不確実性をもたらすものであり、可能な限り避けるべきものであると言えます。ステアリングホイールの右側にはディスプレイ用のコントロールがありますが、中央のタッチスクリーンや音声認識コントロールの使用に比べ、運転中の操作は複雑だと専門家チームでは評価しています。
分析
新型Eクラスの評価にあたって、HMI機能についてより深い分析を行った結果、優れたUXの基盤となっている機能もあれば、改善の余地がある機能もあることがわかりました。
例えば、車両の様々なデライト機能(楽しさや喜びを与えるような機能)は、ユーザーにプラスの影響を与え、Mercedes-Benzブランドの話題性や肯定的なイメージを醸成する可能性があります。特に、オプションのパッセンジャーディスプレイ、アクティブアンビエント・ライティングシステム、MBUXの車載ゲーム機能は、他のデライト機能の中でもこのポジティブな体験に大きく貢献していることが分かった。Zero-layerテーマの機能性はこの体験をさらに向上させ、センターディスプレイの下部に「ドック」を表示することで、繰り返し使用するユーザーの習慣に基づいて、最近使用した機能への効率的なアクセスを提供し、シンプルなメニュー構造を作り出し、ユーザーにより直感的な体験を提供します。
新型Eクラスのビルトインナビゲーションシステム評価では、HMI UXの欠点も発見されています。あるガソリンスタンドがすでに営業していないにもかかわらず、地図上のPOIとして表示された、などシステムのデータに複数の不正確さがあることが明らかになりました。目的地の到着データも同様に不正確で、目的のスーパーマーケットではなく、その隣の施設にナビゲートされるということがありました。車両HMIへのADASの統合についても、調整するまでクラスターやHUDに車間距離が表示されないなど、改善の余地がありました。新しいユーザーにとって、これらのADAS に使用されているアイコンの一部は、見慣れないものに感じられるかもしれません。また、これらのアイコンの(些細ではあるが)デザインの不一致は、同様に注意散漫運転のリスクをもたらす可能性があります。
次のステップ
前述したように、2024年型Eクラスは、リピーターにも新規顧客にも、パーソナライズされたソフトウェア中心のユーザーエクスペリエンスを提供する様々なHMI機能を備えています。SBDのUX専門家チームは、この車両のテストと分析を実施する中で、いくつかの領域にわたって提示された様々なデライト機能を高く評価した一方で、これらの機能の一部の複雑なコントロールが、UXを完全に妨げる可能性があることも指摘しています。今回の記事で紹介した内容は、EクラスのHMI UX評価レポート本編のごく一部に過ぎません。
150ページを超えるレポート本編では、ADAS 、インフォテインメント、ナビゲーション、音声認識など、いくつかの重要な領域にわたる同車両の機能ユーザーエクスペリエンスについて、さらに深い洞察を提供しています。本書では、これらの特徴や機能をSBDの評価手法に照らして採点するとともに、2023年HMI UXレポートシリーズで評価した車両や、2024年シリーズ第一弾の評価対象車両であるBMW X1と、Eクラスとのより幅広いベンチマークを行なっています。
SBDのUXベンチマーク評価レポートシリーズでは、最新の車載HMIソリューション、そのエンドユーザーへの影響、どの車両が最も優れたユーザーエクスペリエンスを提供しているのかについて、専門家チームが包括的な評価を実施しまとめています。
下記より、SBDのウィークリーニュースレターを無料購読いただくことで、本シリーズの新刊発行時にいち早く情報をお届けいたします。
コメント